第2回(2018年度)研究奨励賞受賞論文
■受賞者
佐伯靖雄(立命館大学)
■受賞論文
「日系自動車部品企業の現調化基本戦略」
『アジア経営研究』第23号(J-STAGEにリンク)
■受賞者のコメント
このたびは,栄えある研究奨励賞に選出頂きまして真にありがとうございます。もっぱら生産管理論,技術経営論を専門としてきた身としましては,国際経営の領域で受賞できたことは望外の喜びです。アジア経営学会役員の先生方,並びにアジア経営学会研究奨励賞審査委員会の先生方には,拙稿にこのような過分な評価を賜りましたこと,重ねて御礼申し上げます。
受賞論文では,私がこれまで一貫して研究対象としてきました,自動車部品企業の海外子会社における現地調達率が決まる論理とメガFTA時代に入った今日における現調化の現状と課題について研究致しました。製造業,とりわけ自動車産業を分析対象とする研究は,国際経営論では割とポピュラーな分野かとは存じ上げますが,その中でも比較的広範な領域に跨がった複数の自動車部品企業にクローズアップしたこと,また研究の蓄積が相対的に少ない国際調達に論点を定めたことが,多少なりと新規性のある研究に繋がったのではないかと思っております。
これまで私は,(自動車産業や国際経営論といった)研究者が多い領域でありながらもニッチな分野を見つけてはそこを深掘りするという研究スタイルを貫いて参りました。競合の多い研究領域であったればこそ,拙稿で議論したような細分化されたテーマがかえって関心を呼ぶこともあるということでしょうか。今回の受賞により,こういった地味な研究であっても,真摯に取り組み続けていれば報われることもあるという意味で,さらに若い研究者の方々の励みになれば幸いです。
最後になりましたが,このような栄を賜るに足るだけの研究手法を授けてくださった大学院時代の恩師である肥塚浩先生(立命館大学)ならびに2016年の「アジア自動車シンポジウム」にて拙稿のもとになる研究報告の機会をくださった塩地洋先生(京都大学)にも心より感謝申し上げます。
2018年9月16日
佐伯靖雄(立命館大学)
■審査委員会からの講評
本論文は、多国籍事業展開を進めた日系自動車部品メーカーを分析対象とし、現地調達の実態とその根底にある論理、さらにその論理の変化について考察している。先行研究の整理、実態調査に基づく事実関係の整理、そして何よりも実態調査から多くの知見を得て新たな論理構築へと進んだ本研究には独創性が認められ、本審査委員会として高く評価するところである。
特に「真水の現地調達率」に真正面から取り組んだ実証研究がほとんどなかったため本研究の貢献は大きい。しかし事例の数が必ずしも十分とは言えず、議論に不十分さが残るのもの事実である。今後こうした方法論的な取り組みが充実できれば、当該分野における学術的貢献も本格的に高まると予想される。
アジア経営学会としては、グローバル市場を舞台にダイナミックに展開するアジア企業(含む産業)の経営問題を考察対象とし、十分な実態調査にもとづく新たな論理の構築を進め、学術のみならず広く実務に対しても貢献していくことを目標と考えている。その意味で、本論文の筆者のような若手研究者の一層の精進に期待するところが大きい。
以上より、本審査委員会は、本論文が2018年度アジア経営学会研究奨励賞に相応しい論文であると全員一致して評価した。
2018年9月15日
委員長:柳町 功(慶應義塾大学)
副委員長:夏目啓二(愛知東邦大学)