アジア経営学会

第1回(2017年度)研究奨励賞受賞論文

■受賞者

四宮由紀子(近畿大学)

■受賞論文

「日本ホテル企業の国際発展とアジア回帰の軌跡;過去50年間の国際企業行動の変化に関する考察」
『アジア経営研究』第22号(J-STAGEにリンク

■受賞者のコメント

この度は、第1回 研究奨励賞受賞の栄に浴し身に余る光栄に存じます。これもひとえに、大学院時代よりご指導賜った安室憲一先生をはじめ、私の未熟な研究に常に叱咤激励と知的示唆を与えて下さった先輩諸氏ならびに学会の先生方のご支援の賜物と深く感謝致しております。

私は大学院博士後期課程の頃より約20年間に渡り、日本のホテル産業の国際化について研究してまいりました。当時の国際経営研究と言えば、製造業、とりわけ自動車産業や家電産業に関する研究が中心で、日系サービス企業は国際展開自体が始まったばかりという段階でした。多くの学会においてもホテル国際化研究に興味は持って頂けたものの談論風発となることは少なく、常に国際経営研究の傍流にいる気分でした。やがて、日本のホテル産業はバブル崩壊による経済不況の余波を一身に受け、海外市場から次々に撤退、破たん、統合整理を繰り返す時期が十数年続きました。この間、日系ホテルの国際化は進展するどころか後退しており、またホテル各社から研究調査への協力も得にくくなり、正直申しますとホテル研究への情熱が薄らいだ時期もございました。

しかしながら、「なぜ日本のホテルの国際化は進展しないのか、なぜ国際競争力が弱いのか」、上手くいかない国際化への疑問が逆にヒントを与えてくれ、心折れそうになった研究への熱意を再び取り戻してくれました。また、これまでに調査にご協力頂いたホテルマンたちが熱く語って下さった、国際化した際の誇らしさと撤退せざるを得なかった悔しさをそのまま埋もれさせる訳にはいかないとも思いました。

停滞しかかっていたホテル研究が進展したのは、欧米系ホテルの発展パスを成功パターンとして「日本のホテルはなぜ競争劣位なのか」と比較するのではなく、「日本のホテルはそういう形でしか国際発展しえなかった、かつそれが日本のホテル産業固有の特性である」と、研究視角を転換したことにありました。日系ホテルが欧米市場で上手くいかなかった原因は何か、アジア市場では通用する理由は何か。そうした日本ホテル企業の国際行動のパターンを裏付ける固有の産業構造が必ず存在するはずだという推測の下、様々な視点から考察した結果、日本特有の「親子会社間の出資構造」や「ホテル結婚式という慣習から派生する地元密着型経営」などの特徴を明らかにすることができました。

今回の受賞によりまして、一人でも多くの先生方に日本のホテル産業の現状とホテル国際化研究について知って頂けたことを心より嬉しく思います。今後も微力ながら日本のホテル産業の発展に貢献できますように努力してまいりますので、変わらぬご指導とご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

2017年10月1日
四宮由紀子(近畿大学)

■審査委員会からの講評

審査委員会が、審査対象論文を高く評価した点は、以下のとおりである。審査対象論文は、日本のホテル事業が国際化してきた50年間にわたる歴史を跡付け、その特徴を析出したこと、さらにまた、日本のホテル事業が、アジア回帰していることを析出したことにある。

これまでの企業の国際化の研究において、すなわち、これまでの多国籍企業の研究においては製造業や流通業、採取産業に属する企業の国際化に関する研究の蓄積が多いなかで、サービス業、とくにホテル事業の国際化に焦点を当てていること、とりわけ欧米のホテル事業ではなく、日本のホテル事業の国際化を研究対象とする点が評価された。すなわち、研究対象の斬新さが高く評価された。

したがって、研究対象の斬新さからその理論と研究方法については、その新たな開拓が求められる。すなわち、日本のサービス企業の国際化の新しい理論と研究方法が求められる。このため、審査対象論文は、先行研究を整理し、その研究方法の開拓を試みている。審査対象論文が析出した日本のホテル事業の特徴は、日本のホテル事業の産業構造からの分析であり、事例研究から析出している。

現在、日本のサービス事業における企業の国際化の理論と研究方法は、いまだに開発途上にあると思われる。審査対象論文は、この研究分野の大きな課題、未開拓と思われるサービス事業における企業の国際化の理論と研究方法の開拓に挑戦しているのである。審査委員会は、そのことを高く評価した。

2017年9月3日           
委員長:柳町功(慶應義塾大学) 
副委員長:夏目啓二(愛知東邦大学)
委員:安積敏政(甲南大学)  
委員:加藤志津子(明治大学) 
委員:中川涼司(立命館大学) 
委員:林倬史(国士舘大学)  
委員:劉永鴿(東洋大学)