アジア経営学会

第3回(2019年度)学会賞受賞著作

■受賞者

横井克典(九州産業大学准教授)

■受賞論文

『国際分業のメカニズム 本田技研工業・二輪事業の事例』、2018年、同文舘出版

■審査委員会からの講評

本書は、筆者が2005年以降書き続けた論文の集大成である。そのうち1本は共著論文である。分析対象は、本田技研工業の二輪事業で、その国際展開に分業という観点からアプローチした実証的な研究成果である。

本書は、学術書としての形式と内容を備えている。序章「本書の課題と構成」において、先行研究を適切かつ的確に紹介し、「国際生産分業」における動態的な「調整メカニズム」というオリジナリティを持つ分析枠組みを明確に提示している。そして、第1章と第2章で、ホンダ二輪車の国際生産分業の長期的な形成プロセスを実証的に分析している。第3章と第4章において、生産と消費を結ぶ国際的かつ動態的な「調整メカニズム」を生み出してきていることを実証的に明らかにしている。

実証面では深掘りが成功している。先行研究に示された従来の企業内の国際分業に関する構造的歴史的分析がより深められた水準でなされている。なかでも、市場が縮小してきている日本・本社と、拡大するとともに変質してきている海外拠点との関係、および海外拠点間での関係調整についても実証的な分析を行っている。このような国際生産分業とその動態的な調整メカニズムという分析枠組みは、ここではホンダ二輪車というシングルケースの分析からのものではあるが、例えば自動車などの他の産業分野にも適応可能になると思われる。

理論的インプリケーションにおいても、先行研究に対して、国際的かつ動態的な「調整メカニズム」という新たな視点と分析枠を提起したことは高く評価される。

最後に難を言えば、本書はアジアを分析したものかという点である。本田技研工業のグローバルな展開を分析した結果、アジア展開を分析することになったということであろう。対象をアジアに限定することによって失われる特質を考量すると、現状でアジア経営に関する分析として位置づけてよかろう。

以上のような分析が、正確かつ十分な深みを持って説得的に展開されている。学会賞にふさわしい学術的な内容を備えていると評価することができる。

2019年12月16日
アジア経営学会 学会賞審査委員会
委員長 上田義朗(流通科学大学)
副委員長 吉野文雄(拓殖大学)