アジア経営学会

コラム:アジアビジネス最前線(FRONT LINE OF ASIAN BUSINESS)

2017年10月10日受付

カンボジア 2018年の最低賃金 170ドルで決着

カンボジア総合研究所
CEO/チーフエコノミスト
鈴木 博

2018年1月1日から適用されるカンボジアの縫製業の最低賃金は、170ドル/月で決着した。現在は153ドルで、11.1%の上昇となる。最近の最低賃金の上昇は、2012年61ドルから2013年80ドル(31.1%増)、2014年100ドル(25.0%増)、2015年128ドル(28.0%増)と急激なものがあったが、労働諮問委員会で客観的基準を使用し始めた2016年は140ドル(9.4%増)、2017年153ドル(9.3%増)と1桁台の上昇に留まった。2018年は選挙があるため大幅な伸びになることも懸念されたが、客観的基準に沿った想定の範囲内の概ね妥当な金額となったものと見られる。

最低賃金は、政府、雇用者、労働組合の3者の代表28名が参加する労働諮問委員会で討議されてきた。雇用者側は162ドル、労働者側は170ドルを要求していたが、10月5日の会議で投票が行われ、政府案の165ドル(7.8%増)が多数を得て、労働大臣に答申された。この結果を受けて、フン・セン首相は、毎度おなじみの鶴の一声で5ドル増額を加えることを決定し、最終的に170ドルで決着した。なお、学校教員の最低賃金は、現在の240ドルから250ドルに引き上げられる見込みである。

10月4日、カンボジア縫製製造業協会(GMAC)は、2018年の最低賃金引上げに備えて、政府に経営コスト削減に関する陳情を行った。カンボジア縫製製造業協会は、政府が課している輸出管理費(EMF)を半額にする、輸出入検査・不正防止総局(カムコントロール)の検査費を現行のコンテナ1本当たり50ドル(約5600円)から税関検査費と同水準の15ドル(約1680円)に引き下げる、現在免除されている月間売上高の1%を毎月支払う前払事業所得税について更に5年間減免を継続すること等を要請した。
カンボジア縫製製造業協会では、最低賃金の引き上げは、縫製業にとって大きなコストアップ要因であり、会員企業の収益状況に大きな影響を与えかねないと主張している。

内需振興のためにも、最低賃金の引き上げは必要不可欠だが、急激な上昇は外国投資家の懸念となっている。ベトナムよりも高くなっているとの声もあるが、社会保険料や手当等を含めた実支払額では、カンボジアの方がまだまだ低いのが実情である。カンボジア政府では、最低賃金の検討に当って、労働生産性上昇率や物価上昇率等の客観的基準を2016年の最低賃金から使用し始めており、雇用者側も労働者側も納得感が高い決定方式が次第に定着しつつある。カンボジアにとっては、当面縫製業のような単純・非熟練労働が主流とならざるを得ないものの、自動車部品製造等の高付加価値製造業へのシフトも進めていく必要があり、企業側・被雇用者側双方の継続的な努力が期待される。また、カンボジア経済にとって生命線である外国直接投資の誘致を引き続き進めていくためにも、ビジネスコストの削減等、投資環境改善の努力が継続されることが重要と見られる。

≪カンボジア総合研究所連絡先≫
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