アジア経営学会

コラム:アジアビジネス最前線(FRONT LINE OF ASIAN BUSINESS)

2017年6月8日受付

在ベトナム日系企業とFTA/EPAの活用

ジェトロ・ハノイ 佐藤 進

私は、ジェトロ・ハノイに勤務して11年が経つ。2008年末より担当の一つとしてFTA/EPAがあり、当地日系企業や日本企業の相談に対応している。担当してこの10年余りで感じるのは、ベトナムはFTA/EPAに関連する通商政策を積極的に展開していること、また同時に当地日系企業の関心が高くなっていることだ。では、具体的にベトナムでのFTA/EPAの発効状況を下記の通り見てみたい。

①ASEAN物品貿易協定(ATIGA 1996年 発効)
②ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA 2005年発効)
③ASEAN韓国自由貿易地域(AKFTA 2007年発効)
④日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP 2008年発効)
⑤日越経済連携協定(JVEPA 2009年発効)
⑥ASEANオーストラリアニュージーランド自由貿易地域(AANZFTA 2010年発効)
⑦ASEANインド自由貿易地域(AIFTA 2010年発効)
⑧ベトナム・チリ自由貿易協定(VCFTA 2014年発効)
⑨ベトナム・韓国自由貿易協定(VKFTA 2015年発効)
⑩ベトナム・ユーラシア経済連合自由貿易協定(EAEUFTA:ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、
 アルメニア、キルギス 2016年発効)

ベトナムは10協定が発効され、ASEAN各国の発効状況と比較した場合、シンガポール21、マレーシア13、タイ12、フィリピン7、インドネシア6となっており、タイに次ぐ4番目となる。また、ベトナムで締結済・最終合意済のFTA/EPAは、ベトナム・EUFTA(EVFTA)と環太平洋パートナーシップ(TPP、2017年1月に米国ドナルド・トランプ大統領が離脱を表明している)の2協定である。ASEAN各国は、シンガポール3、マレーシア1、フィリピンとインドネシア共に1、タイ0となっている。発効済と締結済・最終合意済のFTA/EPAを合わせるとベトナムは3番目にFTA/EPAが充実した国である。加えて、ベトナムは、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)とベトナム・イスラエル自由貿易協定が交渉中となっており、自由貿易政策を積極的に推進している国と言える。

これまでベトナムのFTA/EPAは、ACFTAなどをはじめとしたASEAN+1で、アジアを中心とした多国間が多かった。それに加えて、最近はJVEPA、VCFTA、VKFTAの二国間協定、EVFTA、TPPなどアジア以外のグローバルなFTAにも取り組もうとしている。

在ベトナム日系企業のFTA/EPAの活用も増えてきている。ジェトロが毎年実施している「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」によると、FTA/EPAを活用している在ベトナム日系企業(輸出入含む)は、2016年で47.2%と約半分弱で、3年前の2013年36.6%よりも増加している。具体的には、輸出入ともにASEAN(ATIGA)、日本(AJCEP、JVEPA)、中国(ACFTA)の順での活用が多い。中でも、卸売・小売業が、ASEANからの輸入においてFTA/EPAを利用するケースがこの3年で増加しており、日本企業が市場としてベトナムに注目していることがわかる。2018年には、ATIGAにおけるベトナムの輸入関税が撤廃されることもあり(一部品目は除く)、さらに当地日系企業の活用が増加することが予想される。

私が在籍するジェトロ・ハノイ事務所においても、当地日系企業からのFTA/EPAに関する問い合わせが寄せられる。関税率や原産地規則(RO)の解釈などの基本的な質問や、原産地証明書(C/O)の発給や輸入通関でFTA/EPA関税率の適用ができない等の当局とのトラブルなど多岐に渡る。

当地日系企業や日本からの相談に対応していて驚かされるのは、FTA/EPA税率がC/Oを取得しないと活用できないこと、また、商品の関税率に関税番号(通称HSコード)が存在することを知らない企業が意外と多いことだ。そのような企業は、2018年以降、ベトナムのATIGAの関税率が撤廃されると、C/Oを取得しなくても0%になると勘違いしている。TPPなど他のFTA/EPAに関しても同様の理解である。我々は、そのような企業に対して順を追ってFTA/EPAの仕組みを説明するのも、役割の一つと考えている。

一方で、FTA/EPAの企業相談に対応していて、嬉しいこともある。例えば、ある当地日系物流会社の駐在員は、頻繁にFTA/EPAに関連するROやC/Oについて問い合わせをしてきていた。その問い合わせの頻度は、多い時には週に数回におよび、さらに納得するまで詳細な説明を求めてくる。このため、私も何度か音を上げそうになったが、相手はわからないから聞いているのであって、そのために我々がいるのだと思い最後まで付き合った。また、詳細に質問をされると自分でも理解できてないことも多く、ジェトロ関係者やC/O発給当局や税関総局に問い合わせるなど、勉強になることもあった。その甲斐あってか、その駐在員が帰任する際、「おかげさまで、最近私がFTA/EPAに関して同僚に教えています」と言って頂き、自分のやってきたことが少しは報われたのかなと感じた。他方、その駐在員からは、義理堅いのか我々の知らない貿易通関などの法令情報をいち早く提供して頂けるようになり、何度か相談に来る当地日系企業に恥をかくことなく対応できた。

他にも、FTA/EPAを知らない企業に対応しているうちに、逆にそれら企業を訪問し利用状況や実態を教えて頂くことが多くなり、担当する私にとっては欠かせない存在となっている。これが、FTA/EPAを担当している面白さであり、醍醐味である。