アジア経営学会

コラム:アジアビジネス最前線(FRONT LINE OF ASIAN BUSINESS)

2017年5月31日受付

南部経済回廊の発展のために:プノンペン経済特区の中長期構想

プノンペン経済特区株式会社
取締役兼CEO
上松 裕士

実績と現状

プノンペン経済特区株式会社(PPSEZ社)は、2017年で創業12年目を迎える。2006年から華僑系カンボジア人女性、リム・チホー氏と日本の不動産デベロッパー(当時、現在は投資会社)、㈱ゼファーが出資し、357haの原野を10人足らずのスタッフで開発し始めた。2017年6月現在、スタッフ95名、入居企業83社(うち日系企業46社)、プノンペン経済特区(PPSEZ)入居企業の輸出高は、昨年3億USドルに達した。また、PPSEZ社は、2016年5月にカンボジア証券取引所に上場を果たし、時価総額4千万USドルのカンボジアで4番目、地場資本が大株主の民間企業としては初の上場企業となった。以下、PPSEZ社の概要をまとめた。

社名:プノンペン経済特区株式会社(Phnom Penh SEZ Public Limited Company)
主要株主:リム・チホー(PPSEZ社会長)56%、㈱ゼファー(本社:東京都千代田区)17.6%、フィナンシア・シリウス証券(本社:タイ王国バンコク)11.4%
主要入居製造業:味の素、コンビ、住友電装、デンソー、ミドリテクノパーク、ミネベアミツミ、ロート製薬、アンコール乳業(ビナミルク)、コカ・コーラ、ベタグロ、ローレルトンダイアモンド(ティファニー)
主要入居非製造業:H.I.S.、啓愛社ホテル、佐藤工業、大気社、トヨタ、日本通運、郵船ロジスティクス、レストラン東京
就業人口:17,000人

また、PPSEZ社は、2015年2月にカンボジア政府の反汚職ユニットと汚職撲滅のための覚書を賛同する入居企業とともに締結し、PPSEZ社が行う自社と入居企業のための全ての諸官庁手続きを公定料金のみで行っている。

今後の取り組み

カンボジアが工業化を進めるためには、電力と物流の改善に力を入れなければならない。そこでPPSEZでは、特区内での高まる電力需要に応えて、電力公社と大口ユーザーであるミネベアミツミと連携して、変電所を敷地内に建設すべく、現在準備を進めている。これにより、より電圧の安定した電力を今より低価格で、入居企業に提供出来るようにすることを目指す。
また、深まるカンボジアとタイとの経済的関係に着目し、昨年の上場時に、新たにタイ資本を株主として受け入れた。さらに株主の1社であるタイ物流会社大手のJWD Infologistics社から役員1名を招聘し、タイとの物流を強化し、「タイ+1」の流れを取り込むことを目指す。

タイ国境ポイペトの開発

長年日系製造業の生産拠点として確固たる地位を築き上げてきたタイは、近年、人件費の上昇、人材不足、高齢化社会への突入といった課題をかかえている。こうしたタイの状況を踏まえ、PPSEZ社は、タイ国境の町ポイペトで、新たな経済特区の開発に取り組んでいる。現在、国境から8kmの場所に68haの土地を確保し、第一期として約30haのインフラ工事を行っている。ポイペトは、バンコクから250km、車で4時間弱の場所にあり、「タイ+1」の受け皿として、最近注目が高まっている。既に、日本電産、日本発条、トヨタテクノパーク(豊田通商)、スミトロニクス(住友商事子会社)等の日系企業が進出しており、今後、タイで操業している製造業が、追加設備投資をする際、選択肢の一つとしてポイペトを検討するケースが、増えていくと考えられる。PPSEZ社は、この動きからより多くの製造業を誘致するためには、質の高い電力の供給が必須と考え、タイ電力事業会社大手、B.Grimm Power社と合弁会社をつくり、ポイペトでの送配電事業を共同で行うことにした。既に、今年3月に覚書を締結し、6月に合弁契約を締結する予定である。B. Grimm Power社は、タイのアマタ工業団地、レムチャバン工業団地等代表的な工業団地で、20年以上発電配電事業を行い、タイへの高付加価値製造業の誘致に、重要な役割を果たしている会社である。

中長期計画構想

PPSEZ社の中長期戦略は、メコン圏の南部経済回廊の発展とともに、事業を成長させていくことである。プノンペンを拠点に、西はタイ国境のポイペト、将来はベトナム国境のバベットで経済特区の開発運営を行い、これら3つの南部経済回廊の要衝に、日系を中心とした製造業の集積を図り、カンボジアの工業化に寄与していきたいと考えている。メコン圏を日本になぞらえると、バンコクは東京、ホーチミンは大阪、プノンペンは名古屋という位置づけで、南部経済回廊は、さしずめ「太平洋ベルト地帯」のように発展していくと考えている。このような構想を実現するためには、十分な資金が必要だ。PPSEZ社は、昨年カンボジア株式市場に上場を果たし、8百万USドルを調達した。さらに、2年後を目途に、タイ株式市場への上場を目指し、さらなる資金調達先を獲得したいと考えている。また、国連開発計画(UNDP)が昨年立ち上げたUN Social Impact Fundと近々覚書を結ぶ予定で、経済特区本体の開発だけでなく、付随するゴミ処理施設や低所得者向住宅、人材
育成機関等にも資金調達の術を確保出来る予定である。

南部経済回廊地図

おわりに

カンボジアは、1970年代後半のポルポト時代に、数多くの国民が殺された悲惨な歴史を持つ。その後遺症で、未だ教育制度が不十分だが、カンボジア人の性格は、真面目で素直、向上心もある。ミネベアミツミや住友電装も5年程前の工場立ち上げ時は、苦労が多々あったが、今では、タイの工場と生産性が変わらなくなるまで、カンボジア人の工員が育ってきている。カンボジア政府も2015年に産業発展政策2015-2025を策定し、工業化への道を推進すべく、熱心に取り組んでいる。PPSEZは、これからもカンボジアの工業化のモデルケースとして、さらなる発展、進化に取り組んで行きたいと考えている。