アジア経営学会

コラム:アジアビジネス最前線(FRONT LINE OF ASIAN BUSINESS)

2016年7月26日受付

「中国と韓国の勢いにみるベトナム人の変化」

Japan Computer Software Co. Ltd.
古川浩規

ベトナムとは、現地法人の代表としてのみならず、「現地での大学OB会の顧問」「客員教員としての現地大学群とのお付き合い」としても関係が続いている。仕事柄、日本とベトナムを毎月往復しているが、ここ数年の日本でのベトナム熱の高まりとともに、ベトナムでも中国と韓国の勢いの強まりを感じている。そこで、日本では「稀に見る親日国」として見られているベトナムも、「日本はもちろん大好きだけど、中国と韓国も無視できない」という状況を、ベトナム中部の都市ダナンを中心にご報告したい。

日本人ビジネスマンにとって、北部にある首都ハノイ、南部にあり国内最大の商業都市ホーチミンは仕事上でも一度は耳にしたことがある都市と言っても過言ではないだろう。ベトナム日本商工会(ハノイ)とホーチミン日本商工会がそれぞれ存在し、日本企業も活発に活動している。また、行政上、ハノイ・ホーチミンの両市と同格の都市が他に3都市存在するが、この中で唯一、日本との直行便が就航しているのがダナンである。ダナンはインドシナ半島を東西に貫く「東西経済回廊」の東の端としても位置付けられ、以前よりその潜在力を認識されていた。また、ベトナム商工会議所(VCCI)とアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)が協力して公表する地方競争力指数(PCI)でも2013、2014、2015年(直近調査)と3年連続でトップを維持していることや、2014年のベトナム航空による成田/ダナンの直行定期便就航も契機となり、ビジネスでも観光でも、近年、日本人に特に注目を浴びるベトナムの都市の一つにもなっている。

ただ、そのような潜在力のある都市を他国も見逃すはずはない。日本との直行便が就航する以前より、大韓航空とアシアナ航空の2社が仁川(ソウル)/ダナンとの直行便を就航させていたが、7月1日からは韓国の格安航空会社(LCC)1社がさらに仁川線を就航させている。また、ダナン市への海外直接投資は、ダナン市の資料によると韓国が2位(国家別割合で19.55%)となっており、首位のシンガポール(同19.79%)とほぼ変わらず、4位の日本(同10.65%)を大きく引き離している。近年、ベトナム全土でみた場合、累積認可額でも、年別でも、日本は韓国を下回っているが、ダナンでも同じ状況となっている。訪ダナン観光客数にしても、成田/ダナンの直行便は日本人観光客でほぼ満席となっているが、特に2015年に中国人観光客が急増したことから首位は中国となっており、外国人旅行者が宿泊する海岸沿いの料理店では中国語の看板だらけという状況である。なお、ベトナム全土でも今年上半期の外国人訪問者数(約471万人)の約1/4を中国人が占め(約120万人)、日本人(約36万人)の約3.4倍。韓国人は約74万人で日本人の約2倍である。

もちろん、統計上、日本の優位が見えにくくなってきているとはいえ、ベトナムが親日国であることに全くの疑いはない。「どこの国の人?」という質問に対して「Toi la nguoi Nhat(私は日本人です)」と言うだけで、相手の態度がガラッと変わるということはこれまで何度も経験している。しかし残念ながら「ビジネス」の視点でいえば、その日本指向にも変化が出てきてしまっているということを問題として感じている。

中国とは政治上の問題を抱えていても、ベトナムにとっては、統計上、最大の貿易相手国である(667億ドル)。次いで、アメリカ(413億ドル)、韓国(365億ドル)と続き、日本が第4位(285億ドル)であるため、外国語大学などでの日本語学習者数にも影響が出てきていると聞くこともある。また、近年、K-POPや韓流ドラマといった韓国の放送を専用チャンネルでベトナム語にして放送することにより、特に若い世代を中心に韓国のソフトパワーへの傾倒も起きてきている。日本の「かわいい」よりも韓国の「きれい」への憧れ、価格が高く手が届きにくいが理想的な「日本製品」よりも価格と性能である程度の妥協ができる現実的な「韓国製品」の購入、といったことは現実に起きていることでもある。

もちろん、文字通りのmade in Japan製品や日本からの技術移転といったことは、引き続き、垂涎の的であり、ベトナムでも何度目かの「日本ブーム」が再来する兆しもある。そのため、今後の日本企業の戦略の中心になるであろう「市場としてのベトナム」を考えた時には、これらが重要な視点の一つになってくると思われるが、いずれにしても「親日国だから」「日本人に近いはずだから」という妄信的な発想だけは厳に慎むべきであろう。「ベトナム人は金が絡むと人が変わる」と揶揄する在留邦人もいるが、ベトナム人が日々の買い物であっても市場での値切り交渉が当たり前の生活をしている以上、ベトナム人ビジネスマンがHard Negotiatorであることは想像に難くない。ダナン市がある中部ベトナムでは、ベトナム人の気性が穏やかなことでも知られているが、それでも、ベトナム人との付き合いはすべてが異文化コミュニケーションであることを痛感させられることばかりである。