アジア経営学会

第5回(2021年度)研究奨励賞受賞論文

■受賞者

陳燕双 同志社大学商学部商学科・助教

■受賞論文

トヨタ中国工場における方針管理と改善能力の育成
『アジア経営研究』第26号、2020年(J-STAGEにリンク

■審査委員会からの講評

本論文は、トヨタ自動車系の中国合弁企業であるG社工場に対する2週間の実地調査を通して、G社の方針に基づく改善活動(組織学習)の実態を考察している。その調査は2週間に及び、方針管理活動の一環となる会議に直接参加しての密着観察と、現地関係者へのインタビューからなり、同社内の経営管理の細部を明示している。

従来のトヨタ社の方針管理に関する主な研究では、方針管理はその実行過程において、トップダウン的かつ管理統制的であるとしているが、本論文では、G社の方針管理のあり方が、トップダウンとボトムアップを両立する創発的な方針の策定と実行であると指摘されている。

このような詳細な実地調査と新たな知見の提示は、学問上の独創性と発展性を本論文が十分に備えている証左となりうる。

ただし、トヨタ自動車に関する事例研究はすでに数多く行われており、それらの比較対照によって、または実地調査の対象拡大によって本研究の一般性や外的妥当性がより明確に主張されうるであろう。さらに生産現場の改善活動は多様であり、それを2種類に大別した根拠が示されていない。改善活動の先行研究に基づく考察がより深化すれば、本論文の理論的な貢献度は向上するであろう。

こういった課題はあるものの、本論文は経営組織論のみならず、経営管理論や経営戦略論の研究にも重要な示唆を与えており、アジア経営学会における経営学研究の今後の進展に受賞者は若手研究者として大いに寄与して頂けることが期待される。

以上、審査委員会は、本論文が研究奨励賞の受賞に値すると判断した。

2021年8月16日

アジア経営学会 研究奨励賞審査委員会
委員長 上田義朗(流通科学大学)
副委員長 吉野文雄(拓殖大学)