第8回(2024年度)アジア経営学会賞受賞著作
■受賞者
竇 少杰(とうしょうけつ・DOU Shaojie)
■受賞著作
『“新常態”中国の生産管理と労使関係―実態調査からみえる生産現場の苦悩と工夫―』、2022年、ミネルヴァ書房
■審査委員会からの講評
2010年代の中国における生産管理と労使関係について,明確な研究フレームワークを踏まえた上で,現地でのヒアリング調査の結果をもとに,生産現場における「苦悩と工夫」について分析し,結論を導き出しており,評価する。
計画経済期の管理や人事労務管理,改革開放期の労使関係の変容や労働力の流動化について適切に説明している。その上で,雇用形態の多様化した国有企業,非正規雇用が溢れる国有企業,法律違反も存在する民営企業,仕事管理や人事労務管理で成果を出している民営企業という4つの事例を選択し,詳細なヒアリングにより中国製造企業の生産管理や労使関係の内情をこれまでになく明らかにした点を,高く評価する。
ただし,次のような不十分性が見られる。第1に,中国の労使関係の変容に関する先行研究は検討されているものの,研究フレームワークを提示する上で必要な先行研究が検討されていない。第2に,中国では労働争議の多発など厳しい労使関係が見られる中,4つの事例は上手くいっている事例であり,上手くいっていない事例のヒアリングの難しさがあるにせよ,生産管理と労使関係の困難性の実態をより明らかにすることが必要である。
このような不十分性が見られるものの,本書は,2010年代以降の新常態下の中国企業の生産管理や労使関係について,計画経済期の「単位社会」がどのように今日の企業へ変貌してきたのか,変化しきれていない点は何かなどを明らかにしている。また,中国に進出している日系企業内での労使問題にも直結しており,特に在中日系企業を研究テーマとするアジア経営学会会員に対して,一定の示唆がある。以上から,本書はアジア経営学会学会賞受賞に十分相応しいものであると判断した。
2024年9月14日
アジア経営学会
学会賞・研究奨励賞審査委員会
委員長 川端 望(東北大学)
副委員長 肥塚 浩(立命館大学)