アジア経営学会

コラム:アジアビジネス最前線(FRONT LINE OF ASIAN BUSINESS)

2016年12月21日受付

「アセアンの産業人材育成とネットワーキング」

リロ・パナソニックエクセルインターナショナル(株) 上級コンサルタント
元パナソニックAVCベトナム社 社長
元ベトナム日本人材協力センター  チーフアドバイザー
藤井孝男

経済統合の加速、新興国との競争激化、国内諸要因が複合的に絡まり、特にリーマンショック以降、日本企業のアジア展開は新段階に入ったと言える。アジアが世界経済を牽引する成長センターとなり、生産拠点のみならず消費市場となった今日、アジアの活力を取り込んでいくことは、日本の将来にとっては不可欠である。そのためには、現地人材や組織との深いネットワークづくりや互恵的な関係構築が求められると思われる。

筆者は、ベトナムでの18年間の駐在を中心に27年間以上に亘ってアセアン地域で事業運営や人材育成の仕事に携わってきた。特に、JICA(国際協力機構)が発展途上国の知日産業人材育成を目的にアセアン・中央アジアの7ヶ国8センター(ラオス・カンボジア・ミャンマー・ベトナム・モンゴル・キリギス・ウズベキスタン)で支援実施している日本センターの中で、ベトナム日本人材協力センターを6年間担当する機会を得、その間にはミャンマー・カンボジア・インドでの活動状況を見ることができた。その縁もあり、現在はリロ・パナソニックエクセルインターナショナルがJICAから受託している「ラオス日本センタープロジェクト(産業人材育成)」の総括を担当している。

その経験の中から、アセアンにおける産業人材の特徴と育成上の留意点と育成した人材の活用について、少し紹介してみたい。経験し付き合いをさせて頂いたミャンマー・カンボジア・ラオス・ベトナムの人材に共通して言えることは、優秀で向学心が高く、好奇心も強いと言えるが、反面「応用力」や「実践力」には欠けていると思われる。また、プライドが高く人前で注意されることなどは極端に嫌う傾向にある。このことは、指示に対して勝手に判断し行動していることも多い。所謂「報・連・相(報告・連絡・相談)」が苦手と言える。

勿論、各国の人材については相違も存在している。長い間関係したベトナムでは、例えば「5Sを確実に回すことが重要であるが、5Sについて理解できていますよね」と問うと、必ず「分かっています」との返答になるが、実は理解できていないことがよくある。知らないということが「恥」と思っている。私は、このようなプライドがある人材を育成するために「日越経営用語辞典」を発刊した。これは専門用語を簡潔に日本語とベトナム語を併記し、指さしでコミュニケーションと理解向上を図ったのである。このように現地人を尊重しつつ欠点を補っていくのも一つの手法である。
筆者が指導するにあたり留意した点は、まず「現地の国民性や商習慣・歴史的背景及び日本人の特殊性を理解した上で、現地人(の誇り)を尊重しつつ、指導すべき部分はじっくり指導していく」所謂「郷に行っては郷に従い」と「モノを造る前に、人を造る」である。また、「聴くが先、話は後」にも留意した。これは、例えば指示に対して誤りがあった場合などで叱るのではなく、何故間違ったのかを聞いた上で、指導していこうという意味である。

現在、国内の経済協力機関(国・自治体・NPO等)がアセアン地域の国々に対し人材育成を含め様々な支援を展開しているが、先に記述した日本センター事業は、日本式経営を中心に知日家産業人材育成を支援し、優秀な経営者が各国で育成され活躍している。

日本企業の海外進出動機が、安い労働力などの低コスト追求型から顧客追及型に変化し、近年はものづくり中小企業の単独型進出も増加しているが、これらの中小企業は販路や人材確保、更には企業存続(後継者不足)の観点からも現地とのネットワークを必要としている。また、大企業、中小企業を問わず、研究開発段階から、現地社会のニーズをくみ上げることも重要になっている。私は、支援により現地人材の知識・技能が向上しており、これらを活用する事は大きな力になると確信している。日本側の支援ネットワークとの連携を積極的に活用することを提言したい。

以上